CCOとして声がかかったとき、最初に確かめるのは職務内容の説明書ではありません。英語の正式名称と、その席の報酬が何に連動するかの2つです。
CCOという3文字は、少なくとも3つの別の席に使われています。Chief Commercial Officer(商務)、Chief Compliance Officer(法令遵守)、Chief Customer Officer(顧客)。日本語ではどれも「CCO」と書かれます。
そして重要なのは、このうち2つは報酬の設計が正反対でなければ機能しないという点です。商務の責任者には業績連動報酬が必要で、法令遵守の責任者には付けてはいけません。だから報酬の連動先を聞けば、会社が自分でどの席を作ったつもりなのかが分かります。
3つのCCOは、求められるものが逆を向いている
| 正式名称 | 主な責任 | 成果の出方 | 本来の報酬の形 |
|---|---|---|---|
| Chief Commercial Officer | 売上・価格・販路の全体。営業とマーケを束ねる | 数字で出る。四半期で見える | 業績連動を厚く |
| Chief Compliance Officer | 法令・社内規程の遵守体制。違反の予防と有事対応 | 「何も起きないこと」。平時は見えない | 固定が中心。業績連動は避ける |
| Chief Customer Officer | 既存顧客の維持・解約率・顧客生涯価値 | 解約率と継続率。半年〜1年で出る | 非財務指標との連動 |
※業績連動報酬とは: 売上や利益の達成度に応じて金額が変わる賞与や株式報酬のことです。固定の月額報酬に上乗せされる部分で、経営幹部の報酬ではこの比率が席の性格を表します。
同じ3文字でも、Commercial と Compliance では組織内での立ち位置そのものが逆です。商務の責任者は売ることを推す側に立ちます。法令遵守の責任者は、売り方に問題があれば止める側に立ちます。
この2つを同じ人が兼ねている会社も実際にあります。その場合、止める判断と売る判断が同じ人の中で競合します。構造として無理があるので、兼務を打診されたときは、どちらが主たる責任かを書面で確かめる必要があります。
なぜ、同じ略称が使い回されるのか
理由は日本の会社の仕組みにあります。CxOという呼び方は、法律で定められた役職ではありません。
会社法が定める役員は取締役・監査役などで、指名委員会等設置会社では執行役が置かれます。これらは登記され、権限と責任が法律で決まっています。一方、CEO・CFO・CCOといった呼称は社内の呼び名です。登記もされません。
だから、会社はこの3文字を自由に付けられます。CCOという名前は、その会社が自社のある機能をどう位置づけたかの痕跡にすぎず、他社のCCOと同じ仕事を意味しません。 「CCOとは何か」を調べても、あなたに来た打診の中身は分かりません。
役職名が社内の呼称なのか法律上の地位なのかで、契約の形も変わります。この点は執行役員と部長の違いは、序列ではなく契約にあるに書きました。
報酬の連動先を聞くと、会社の理解度が出ます
ここが実務上いちばん効きます。
Chief Compliance Officer の席に、売上や利益に連動する報酬が付いている場合、その会社はこの席の性質を整理できていません。
理由は利益相反です。違反の芽を見つけて取引を止めれば、その期の売上は落ちます。報酬がその売上に連動していれば、止めることが本人の経済的な損になります。 止めるべきときに止まらない設計です。本人の倫理観の問題ではなく、設計が判断を歪めます。
※利益相反とは: 本人の利益と、本来果たすべき役割が食い違う状態のことです。この席では「会社を守る判断」と「自分の報酬を増やす判断」が逆を向くことが利益相反になります。
だから報酬の話は、条件交渉ではなく席の確認作業です。「この席の賞与は何に連動しますか」と聞いたときの答えで、3つのことが分かります。
- 会社がどのCCOを作ったつもりなのか
- その席に独立性を持たせる気があるか
- 有事に自分が何を根拠に守られるのか
逆に Chief Commercial Officer の席で業績連動がほとんど無い場合も、別の意味で確認が要ります。売上の責任を負わされるのに、数字が伸びたときに報われない設計になっていないか。権限の範囲が営業部門長と変わらない可能性もあります。
打診を受けたら確かめる5つ
1. 英語の正式名称を書面で確認する
口頭の「CCO」では分かりません。オファーレターか職務記述書に書かれた英語表記を見ます。書面に無い場合は、無いこと自体が情報です。
2. 誰に報告し、取締役会に自分で出られるか
法令遵守の席では、ここが決定的です。営業部門の責任者を経由して報告する立場だと、止める判断は通りません。取締役会や監査の機関に直接報告する経路があるかを確かめます。
3. 止めた記録が残る仕組みがあるか
法令遵守の席の場合です。案件を止めたこと、あるいは進めるべきでないと述べたことが議事として残るか。残らない会社では、有事に「報告していた」ことを証明できません。
4. 予算と人員を自分の判断で動かせる範囲
商務の席でも顧客の席でも同じです。チャネル投資や価格の決裁が別の人にあるなら、その席で出せる成果は限られます。価格の決裁が誰にあるかという論点はブランディング責任者(CBO)の打診で最初に確かめるのは、値段を最後に決める人で扱いました。
5. 前任者がいたか。いたなら、なぜ空いたか
席が生まれた理由と空いた理由に、権限の実態が出ます。前任者が「意見が通らなかった」で辞めている席なら、名前や報酬をどう整えても構造は変わっていません。
名前と実態がずれている席を、それでも引き受けるなら
ずれている席が悪い席とは限りません。立ち上げ期の会社では、機能の切り分けがまだ済んでいないだけのこともあります。
ただし引き受ける前に、ずれていることを自分が把握した状態で入ることが条件です。具体的には次の3つを合意しておきます。
- 自分の主たる責任はどれか。評価されるのはその指標か
- 兼務している機能について、競合したときどちらを優先するか
- その優先順位を、いつ・誰と見直すか
これが曖昧なまま入ると、1年目の評価面談で初めて食い違いが表に出ます。役員の席は採用ではなく選任で、就任までの手続きにも時間差があります。この点は役員は「採用」されない、選任されるにまとめました。
肩書きが同じでも中身が分かれる構造は、CSOでも起きています(転職サイトの「CSO」は、三つの別の仕事を指している)。顧客側のCCOについては「顧客体験責任者」の求人が本当に役員ポストかどうかは、解約率が誰のKPIになっているかで決まるで扱っています。
肩書きで探すと外します。CCOの場合、確かめるのは報酬が何に連動するかです。
弊社では、PEファンド投資先や事業承継などの非公開の経営ポジションを扱っています。打診された席の権限と報酬がどう設計されているかを含めて確認したい場合は経営者としてのキャリアをお考えの方へをご覧ください。
