CPOとして声がかかったとき、最初に確かめるのは職務内容の説明書ではありません。英語の正式名称と、その席が何に対してNoと言えるのかの2つです。
CPOという3文字は、少なくとも4つの別の席に使われています。Chief Product Officer(製品)、Chief Project Officer(案件・計画の統括)、Chief People Officer(人事)、Chief Procurement Officer(調達)。日本語の求人票ではどれも「CPO」で、ときに「計画責任者」と書かれます。
そして権限の有無は、組織図ではなくNoの出し方に現れます。 4つの席は、止められるものがそれぞれ違います。何を止められるかを聞けば、会社が自分でどの席を作ったつもりなのかが分かります。
4つのCPOは、止められるものが違う
| 正式名称 | 主な責任 | 何にNoと言えるか | 成果の出方 |
|---|---|---|---|
| Chief Product Officer | 製品の仕様・優先順位・ロードマップ | 「それは作らない」 | 製品の売上と利用率。半年〜2年 |
| Chief Project Officer | 複数案件の進行・資源配分・納期 | 「その期日では受けない」 | 納期遵守率と原価。四半期で見える |
| Chief People Officer | 採用・評価・報酬・組織 | 「その条件では採らない」 | 離職率と採用充足。1年以上かかる |
| Chief Procurement Officer | 調達・仕入れ・取引先 | 「その値段では買わない」 | 原価率。数か月で出る |
※ロードマップとは: どの機能をいつ出すかを時間軸で並べた計画のことです。製品責任者の仕事は、ここに何を載せるかよりも、載せないものを決めることに重さがあります。
4つのうち、ProductとProjectは日本語にすると近く見えます。実際には向きが逆です。製品責任者は何を作るかを決める側に立ちます。案件統括の責任者は決まったものを期日と原価に収める側に立ちます。前者は要求を増やす判断をし、後者は要求を削る判断をします。
この2つを同じ人が兼ねる会社もあります。その場合、仕様を増やす判断と納期を守る判断が同じ人の中で競合します。構造として無理があるため、兼務を打診されたときは、評価されるのがどちらなのかを先に確かめる必要があります。
なぜ日本の求人票で混ざるのか
理由は、CxOという呼称が職務権限規程と連動していないことです。
※職務権限規程とは: どの役職がいくらまでの支出を決裁できるか、どの決定に誰の承認が要るかを定めた社内規程です。肩書きと違って、ここに書かれていることが実際の権限です。
日本の会社法に「CPO」という役職はありません。取締役・執行役・執行役員のように法律や社内規程で定義された立場とは別に、対外的な呼称として後から付けられるのが実態です。だから「CPO」と書いても、規程上は部長のままという状態が成立します。
この乖離が起きるのは、呼称を決める動機と権限を決める動機が別だからです。呼称は採用や対外的な見え方のために決まります。権限は決裁の責任の所在として決まります。前者は人事と広報、後者は規程の改定を伴うため、呼称だけが先に動くことが珍しくありません。
結果として、同じ「CPO」の打診が、取締役会の構成員の席であることも、部長相当の席であることもあります。肩書きの格では見分けられません。「権限委譲」と書かれた求人で権限が本物か確かめる方法と同じ構造です。
「計画責任者」という訳語がいちばん紛れやすい
日本語で「計画責任者」と書かれているとき、中身は3つに分かれます。
- Chief Project Officer の訳として、全社の案件ポートフォリオを見る席。 複数の案件に人と金を配分し、止める判断もする。これは経営の席です
- PMO室長の実質。 各案件の進捗を集約し、課題を可視化して報告する。止める判断は事業部門が持つ
- 経営企画の計画立案の実質。 中期計画や予算の策定が主で、案件の実行には関与しない
※PMOとは: Project Management Office。複数の案件の進め方を標準化し、進捗や課題を横断的に把握する部署です。案件を止める権限を持つPMOと、報告だけのPMOがあります。 この差が、席の性格を決めます。
1と2は、組織図では同じ場所に見えます。分かれるのは、他部門の人の予定を自分が動かせるかどうかの一点です。2では動かせません。動かす根拠がないので、各部門長に依頼して回る仕事になります。
「経営に近い席です」という説明は、1も2も3も同じように使われます。聞くべきは近さではなく、動かせる対象です。
打診の段階で確かめる5つ
- 英語の正式名称。 書面で確認する。Productなのか、Projectなのか、Peopleなのか。「特に決めていない」という答えが返ってくることもあります。その答え自体が、席がまだ設計されていないという情報です
- 何に対してNoと言えるか。 具体的な場面で聞く。「仕様の追加を断れますか」「納期の延長を自分で決められますか」。即答できない場合、その権限はまだ誰のものでもありません
- 職務権限規程に、この役職名が載っているか。 載っていなければ、権限は前任者や上位者の運用に依存します
- 取締役会または経営会議の構成員か。オブザーバーか。 議題を自分で出せるかまで聞く。出席と提案は別です
- 他部門の人の時間を動かす根拠は何か。 規程か、会議体の決定か、個人の関係か。3つ目だった場合、着任直後がもっとも動かない時期になります
この5つは、CCOの打診で確かめることやブランディング責任者(CBO)の席でも同じ形で効きます。3文字の略称が複数の席を指すとき、確認の順序は共通です。
新設の席か、前任がいるか
もうひとつ、受けるかどうかの判断に効くことがあります。
前任者がいる席では、権限は運用で既に形になっています。前任者が何を決めていたかを聞けば、実際の裁量が分かります。退任理由も重要な情報です。
新設の席では、権限はまだありません。あるのは期待だけです。この場合、入ってから作ることになります。それ自体は悪くありませんが、作る対象が自分の権限であるという前提を持って入るかどうかで、半年後が変わります。新設の席を引き受けるなら、着任後90日で何を規程に落とすかを、オファーの段階で相手と合意しておくほうが早く進みます。
取締役や執行役員との立場の違いを整理しておきたい場合は、COOと執行役員は何が違うのかも同じ軸で読めます。
経歴書に書くときは、正式名称で書く
逆の立場でも同じことが起きます。過去にCPOを務めた経験を「CPO」と3文字で書くと、読む側は4つのうちどれか判断できません。製品の責任者を探している会社に、調達の責任者の経歴として読まれる可能性があります。
英語の正式名称と、自分が何を止められたかを1行添えるだけで、読み手の誤読は減ります。「Chief Project Officer。全社12案件の資源配分と、着手可否の決裁」のように書けば、席の性格は伝わります。
経営の席は、肩書きの名前ではなく権限の形で決まります。当社は、PEファンドの投資先や事業承継など、非公開で動く経営ポジションを扱っています。いま出ている席がどの種類のものか整理したい場合は、経営者としてのキャリアをお考えの方へをご覧ください。
