後継者を一人決めれば承継が終わる、という前提が崩れる会社があります。社長の席だけでなく、会社の実務を持っている人の席が、数年のうちにまとめて空く会社です。

社長が70歳なら、長年支えてくれた番頭も、工場長も、経理を一人で見てきた人も、たいてい60代の後半にいます。偶然ではありません。会社が伸びた時期に一緒に走った人たちなので、入社や昇格の時期が重なり、年齢も揃っているのです。

だから、後継者を決める前にやっておくことがあります。社長の後任を探すことではなく、社長と一緒に抜ける人を数えることです。紙1枚でできます。

「最初は◯◯さんが支えてくれるから」が、いちばん危ない

後継者の話で、よく出てくる言葉があります。

「新しい社長が来ても、最初の数年は◯◯さんが支えてくれるから大丈夫」

この◯◯さんが、社長より5歳下だとします。社長が引退する時点で65歳。新しい社長が仕事を覚えて、自分の判断で動けるようになるまで2年。そこからさらに体制を作り直すのに2年。◯◯さんは69歳です。

つまり、新しい社長がいちばん頼りにする人が、新しい社長がいちばん忙しい時期にいなくなるという形になります。この形は、困り方が遅れて出ます。だから、承継そのものが失敗したように見えてしまいます。実際には、社長の交代はうまくいっていて、その下が空いただけ、ということが起きます。

紙1枚で数える

難しい作業ではありません。次の3つを並べるだけです。

1. 名前を書き出す。 役職ではなく、名前で書きます。「この人がいなくなったら、明日から止まる仕事がある」と言える人だけです。多くの会社で3人から5人になります。役員名簿とは一致しません。登記上の取締役ではないのに、実務の中心にいる人がいるからです。

2. 年齢を書く。 隣に年齢を書きます。ここで並べて初めて、「全員が同じ時期にいなくなる」ことが目に見えます。社長が一人で考えているときは見えません。社長から見ると一人ずつ別の人なので、まとめて考える機会がないのです。

3. 止まる仕事を書く。 その人がいなくなったら止まる仕事を、具体的に書きます。「営業」ではなく「A社とB社の値決め」。「製造」ではなく「新しい図面を見て工期を見積もること」。「経理」ではなく「銀行への説明と、資金繰りの先読み」。

この3列が埋まった紙が、承継の設計図になります。社長の後任を一人探す話から、会社の判断を持っている人が何人いて、それを何年で渡すかという話に変わります。

仕事と人を切り離す

書き出した「止まる仕事」を、3つに分けます。分け方で、やるべきことが決まります。

社内の若い人に渡せる仕事。 手順があって、覚えれば回る仕事です。値決めの基準、見積もりの計算、月次の締め。渡すのに必要なのは時間であって、外からの人ではありません。これは今日から始められます。渡すときは、見せるだけでは渡りません。一度任せて、結果を本人に引き受けてもらう必要があります。

仕組みに置き換えられる仕事。 その人の記憶や手帳にしか無い情報が原因で止まる仕事です。顧客ごとの約束、過去の経緯、設備の癖。これは人を替えるのではなく、書き出して共有の場所に移す作業です。地味ですが、これをやっておくと、後任が誰になっても引き継げます。社長ご自身の判断についても同じことが言えます。詳しくは会社を渡す準備で一番時間がかかるのは、社長の頭の中にある判断ですに書きました。

外から来る人でなければ無理な仕事。 社内に経験のある人がいない仕事です。たとえば、取引先の構成を変える判断、新しい販路を一から作ること、設備投資の是非を数字で決めること。社長がご自身の勘でやってきた部分が、ここに入ることが多いです。

3つに分けると、外から迎える人の数が見えます。1人で足りる会社と、2人必要な会社があります。この数を先に出しておかないと、社長の後任を1人採って、半年後に「もう1人要る」と気づくことになります。

新しい社長に求める条件が変わります

数えた結果、社長と一緒に抜ける人が多い会社では、新しい社長に求めることが変わります。

経営の経験がある人なら誰でもいい、という話にはなりません。必要なのは、人がいない状態から始められる人です。整った組織で成果を出してきた人と、人を集めながら立て直してきた人は、別の経験を持っています。

面談で確かめる言い方としては、こうなります。

  • 「主力の幹部が同じ時期に抜けた経験はありますか。そのとき、何を誰に渡しましたか」
  • 「社内に経験者がいない仕事を、自分で引き受けてやったことはありますか」
  • 「人を採るときに、ご自身で面接から条件提示まで回したことはありますか」

3つ目は意外に効きます。幹部の後任を作るのは、新しい社長の仕事になるからです。人を採ることを人任せにしてきた人だと、ここで止まります。

候補の方を見極める質問は、外から来る後継者候補を、何で見極めるかにもまとめてあります。

順番は、社長が先とは限りません

社長の交代を先にやるか、幹部の後任を先に作るか。会社によって答えが違います。目安は次のように考えます。

幹部を先にしたほうがよい会社: 止まる仕事の多くが現場に集中している会社です。製造、施工、店舗運営のように、現場が止まると売上がすぐに落ちる業種が当てはまります。現場の後任が育っていない状態で社長だけ替えると、新しい社長は現場の火消しに追われて、本来やるべき判断に手が回りません。

社長を先にしたほうがよい会社: 止まる仕事の多くが、社長ご自身の判断に集中している会社です。幹部は実務を回せているけれど、決めるのは全部社長、という形です。この場合は、決める人を先に入れないと、幹部の後任を作る判断そのものが進みません。

どちらにしても、同時には動かせないことだけは共通しています。社長と幹部を同じ年に入れ替えると、会社の判断が一度に全部新しくなります。取引先と銀行が不安になるのは、ここです。

本人に聞いていますか

最後に、ひとつだけ。

長年支えてくれた幹部の方に、「いつまで働きたいか」を聞いていない会社が、かなりあります。社長としては聞きにくい質問です。辞めてほしいと取られるかもしれない、と考えてしまうからです。

ただ、聞かないままだと、こちらは「まだ数年いてくれる」と思い、本人は「社長が辞めるときに自分も」と思っている、という食い違いが残ります。承継の発表の後にこの食い違いが出てくると、間に合いません。

聞き方は、会社の予定の話にするとお互いに話しやすくなります。「5年後の体制を考えているので、そのころのご自身の希望を教えてほしい」という聞き方です。辞める時期を決めさせる質問ではなく、会社の計画に参加してもらう質問にする。長く一緒にやってきた方なら、この聞き方なら答えてくれます。

伝える順番そのものについては、後継者が決まったら、誰にどの順番で伝えるかに整理しました。


会社を残すという話は、社長の後任を一人見つければ終わる、という形をしていません。会社の判断を持っている人が何人いて、それぞれを誰に、何年かけて渡すか。その設計です。

紙1枚に名前と年齢と止まる仕事を並べるところまでは、今日できます。そこから先、外から迎える必要がある席が見えてきたときは、後継者をお探しの方へもご覧ください。非公開の経営ポジションを前提に、経営を引き受ける人を探す仕事をしています。